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2017.5.8更新
ichi
浜辺のSlice of Life 11 タコライスの誘惑

深夜を数時間過ぎた早朝前の時間に、友人が迎えに来た。
「よぉ」。素っ気無くてすまないとは思いつつも、挨拶はそれだけだった。
そそくさと友人の車に乗り込んだ。

どうにもプライベートとオフィシャルのバランスが悪かった。個人の生活を犠牲にして成り立つ仕事・・・。そんな悪循環で若干擦り減っていた。
そんな時に、友人の細君であり私にとっても古い友人の彼女が、実家近くの漁港を紹介してくれた。「美味しいモノを食べれば元気が出るわよ」と。

誘いに乗ったのは「美味しいモノを食べれば」という一言。
心が疲れていると食欲も落ちるらしい。漁港から船を出して釣り竿を垂らせば、気分も変わり食欲も出るかもしれない。

まだ暗い半島沿いに、波の音を聞きながら友人の運転で進んでいると陽が昇って来た
そして半島の崖を下るようにして下ると、いきなり開けた場所に出た。
目当ての漁港だった。
そこそこ早い時間のはずなのに、漁船はほぼ出払っている。

紹介された船宿に着くと、本気の船「宿」だった。宿泊もできる民宿形式らしいた。友人は顔馴染みらしく挨拶をしている。
釣り客は我々だけ。
船長のオヤッサンに引き連れられ船へと向かう。
太公望の友人は嬉々としている。

約30分の航海でポイントにつく。友人は早々に竿を2本出して集中しだした。

私は餌のゴカイをのんびりと付け竿を垂らす。
数分後、見事に餌だけを食べられた。
以降は餌を付けずに竿を垂らすのみにした。

水平線を見ていると少しだけ‘何か’を忘れられた。

船長が笑いながら私に言う。
「あんましヤル気が無いね。こりゃあポイントを回らなくて楽だわ」

太陽が少しだけ傾くと帰港の時間となる。
釣果は潮風に吹かれ気分転換できたことだった。

船長が波に負けじと大声で言う。
「さて帰ってメシにすべ」
「街じゃタコライスが流行っているんだろ!?本場のタコライスでも食べてけや」

何故に海沿いの漁師町でそんなジャパニーズメキシカンを!?

そんな疑問も束の間。
波を切って飛ぶように戻る船は、船室の壁に背をもたせ反対の壁に足を踏ん張らないと振り落とされるかと思うほどヤバかった。
おかげで、港に着くと月の上でも歩いているような心もとない足運びとなった。

船宿に着くと女将さんすぐに冷たいビールを出してくれる。
友人と喉を鳴らして飲む。何も言葉が出てこない。

箸休めと言って漬物が出てくる。
ぬか漬けが絶品だった。
特に玉ねぎが甘い。
女将さんに聞くと、糠床に何の野菜を漬け込むかで種類を決めると言う。
水気が無いモノと水気のあるモノ、そうして糠床が育つのだと。

羽釜で炊いていたご飯が出来上がる。
丼ぶりに盛りつけられて出てきたソレは「蛸飯」だった。
ほんのりと赤みを。そしてそこに散らされた木の芽の緑が鮮やかだ。

やられたと思ったが冗談ではなくて、昔から「蛸飯」のことをタコライスと言うらしい。

地のものらしい岩海苔の味噌汁が出てきた。
風味が素晴らしい。香りと歯ごたえが潮に吹かれた身体に染み込んでくる。
テトラポットに張り付く海苔は収穫量が少なく出荷するほどでは無い。
そのために地元でしか口にすることができないらしい。

漬物と味噌汁で蛸飯の丼ぶりを平らげると「もうちょっと食べられるか?」と船長が聞いてきた。

とろろ薯のような白くトロリとしたソース状の食べ物が出てきた。
「ライスの上にかけて食べなよ」。
言われたとおりにすると、そこには別次元の味が待っていた。

さらに山葵を溶いた醤油を気持ちかけ、小口に切った葱と鰹節を振りかける。
腹は満たされてしまっているのに、もっと食べたくなる不思議に素晴らしい味だ。

問いかけるような視線だったのだろう。女将さんが教えてくれた。
「お豆腐を水切ってからミキサーによーくかけるのよ、それだけ」
ただし書きがついていた。
豆腐は、大豆と水と「にがり」だけで作った物に限るそうだ。
「にがり」だけ・・・。さすが漁港と言うべきか。

友人と視線が合った。
船長で宿のオヤッサンに聞いていた。
「今夜は部屋は空いてますか?」

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